子供の病気Q&A

アトピー性皮膚炎について

1.アトピー性皮膚炎とは?
アトピー性皮膚炎とは痒みのある湿疹が、慢性的(1歳未満では2か月以上、1歳以上では6か月以上が目安)に良くなったり悪くなったりをくり返す皮膚の病気です。湿疹は皮膚が赤くなったり、ぷつぷつができたり、カサカサ皮がむけたり、かさぶたができたりします。近年では他のアトピー性疾患と同様に増加傾向です。

2.アトピー性皮膚炎の原因は?
元々アレルギー体質だったり、皮膚のバリア機能が弱い人に多いとされています。発症や悪化要因としては食物や汗、乾燥、掻きむしったりなどの刺激、ダニ・ホコリ・ペットのフケ・カビなどのハウスダストやストレスなど様々です。特に2歳未満では食物アレルギーが関与していないか慎重な判断が必要です。

3.治療しないとどうなるの?
皮膚のバリア機能が低下するため、とびひ(伝染性膿痂疹)やみずいぼ(伝染性軟属腫)、などの皮膚感染症にかかりやすくなります。また、痒みがひどいと睡眠障害から成長ホルモンの分泌が低下し、成長障害を起こすことがあります。睡眠不足は日中の活動の質を低下させ、学童以降は学習にも支障がでます。顔に湿疹がある場合、目の周りをくり返し掻くことで白内障や網膜剥離を起こすことさえありえます。このような状態にならないように皮膚のバリア機能を回復(つるつるな状態にする)させ、それを維持するのが治療の目標です。

4.どうやって治すの?
治療は①薬物治療、②スキンケア、③悪化要因対策の3本柱で、それぞれをしっかり行うことが大切です。薬物治療はステロイド外用薬やタクロリムス軟膏(免疫抑制剤)が中心になり、補助的に痒み止め(抗ヒスタミン薬)を使用することもあります。ステロイド外用薬と聞くと、その効果や副作用に不安を感じるかたもいらっしゃると思いますが、正しく使えば非常に有効で安全なお薬です。適切なステロイド外用薬を選び、適切な量、回数を適切な期間使用し、皮膚の状態に合わせて徐々に使用回数を減らしていき、最終的には保湿剤だけにしていきます(プロアクティブ塗布)。この方法を用いれば、ステロイド外用薬の総使用量を抑え、湿疹のぶり返しも防ぐことができます。当院では湿疹の状態に合わせて保護者の方と相談しながら細やかなフォローと具体的な指導を行っていきます。目標はつるつる、すべすべなお肌です。

気管支喘息について

1.気管支喘息とは?原因は?
小児気管支喘息の有症率はこの20年で約2倍に増加していると言われます。気管支喘息とは、慢性的な炎症が気管支(気道)に存在し、これによって気道が非常に過敏な状態になっており、様々な誘因(風邪などの感染、ダニ・ホコリ・ペットのフケ・カビなどのハウスダストやストレスなど)によって発作(咳、喘鳴、呼吸困難など)をくり返す病気です。発症にはアトピー素因(遺伝因子)や環境因子(アレルゲン、感染、受動喫煙、大気汚染など)が深く関わっています。最近ではアトピー素因があまり無くてもRSウィルスなどのウィルスによる呼吸器感染をくり返すことも小児喘息の発症につながると言われています。

2.治療や目標は?
発作に対するその場しのぎの治療だけでは不十分で、発作を起こさないよう根幹にある慢性的な気道炎症を抑える治療が必須です。現在は気道炎症を抑える長期管理薬としてロイコトリエン受容体拮抗薬や吸入ステロイド薬などが用いられ、重症度に合わせて治療ステップを決定します。これらを一定期間、毎日続けることで炎症を抑えて発作が起きにくい状態に変えていきます。軽微な症状(運動や大笑い、啼泣の後や起床時に一過性に見られるがすぐに消失する咳や喘鳴、短時間で覚醒することのない夜間の咳き込みなど、見落とされがちな軽い症状)も無い良いコントロール状態が3か月程度維持出来たら治療ステップを下げていきます。目指すのは昼夜を問わず無症状で、学校やスポーツを含めて日常生活を支障なく過ごすことです。当院では気道のアレルギー性炎症の指標となる呼気中一酸化窒素(NO)濃度測定器を導入し、気管支喘息の診断や治療効果判定に活用しています。この検査はだいたい5歳以上であれば上手にできる検査で、10秒くらいで簡単に計測できます。

食物アレルギー

現在、食物アレルギーは乳児で約10%、3歳児で約5%、学童以降で2%と非常に多くの子どもたちが抱えている問題です。また、これまでのアレルギー診療で行っていた指導内容がこの10年で大きく変化しており、大きな関心が注がれている領域です。原因となる食物は3歳くらいまででは鶏卵、牛乳、小麦が上位です。甲殻類は4歳以上、ソバは学童以上で頻度が増えていき、果物類が原因になることも多くなっています。病型もいくつかありますが、代表的なのはアレルゲン摂取後2時間以内にじんましんや"アナフィラキシー"という重篤な全身性の過敏反応を起こす即時型反応と食物アレルギーが関与する乳児アトピー性皮膚炎です。また、特殊なタイプでは"食物依存性運動誘発アナフィラキシー"といって、原因アレルゲンを食べた後の運動で誘発されるものや、"口腔アレルギー症候群"といって、花粉やラテックスに感作されているひとが、果物や野菜など特定の食物を食べた後に生じるものなどがあります。
以前は食物アレルギー発症予防のため、妊娠中や乳児期にはアレルゲンになりやすい食物を避けるという戦略がとられ、2000年に米国小児科学会は離乳食開始時期を遅らせたり、乳製品、卵製品、魚、ナッツ類の摂取開始時期を遅らせることを推奨しました。しかしながら、その後の世界各国で行われた研究では妊娠中のお母さんの食事制限や離乳食開始時期の延期、アレルゲンになりやすい食物の除去がアトピー性疾患の予防効果がないと判断され、2008年には米国小児科学会はその2000年の指針を改めました。また、同じ年には英国の研究チームがピーナッツアレルギーについて画期的な報告を行いました。同じ祖先をもつ英国在住のユダヤ人とイスラエル在住のユダヤ人では英国在住のユダヤ人のほうがピーナッツアレルギーの頻度が10倍高いというもので、この大きな差は離乳食期にピーナッツを多く食べる習慣があるイスラエルとほとんど食べない英国というものが要因であることが分かりました。彼らのその後の調査でもピーナッツを早期に食べ始め、継続することがピーナッツアレルギーの発症を有意に防ぐことができることが確認されました。また、最近日本で出された"鶏卵アレルギーの発症予防に関する提言"では、アトピー性皮膚炎を持つ早期乳児に関しては、皮膚状態を適切な外用療法で寛解(湿疹が無い状態)させたうえで、医師の管理のもとで生後6か月から鶏卵の微量摂取を開始することが推奨されています。アトピー性皮膚炎と診断されていない乳児について同じことが言えるわけではないですし、他の食物に関しても早期に摂取を始めることが妥当なのかの研究報告はありませんが、少なくとも離乳食開始時期を特に理由なく遅らせる必要はなく、正確な食物アレルギーの診断を行い、最低限の原因食品の除去と原因食品以外の食品を工夫して摂取することが大切です。

アレルギー性鼻炎(花粉症やダニ抗原など)について

1.アレルギー性鼻炎とは?
人の鼻では侵入してきた物質(抗原)を自分以外の物質(異物)と判断すると、それを無害化しようとする反応(抗原抗体反応)が起きます。その結果、くしゃみ、鼻水、鼻づまりなどの症状が出てくる病気をアレルギー性鼻炎と呼びます。

2.こどもでもなるもの?
こどものアレルギー性鼻炎は年々増加していると言われ、特に6歳前後から受診する割合が増えます。

3.アレルギー性鼻炎の種類は?
アレルギー性鼻炎はダニやハウスダストによる通年性アレルギー性鼻炎とスギやヒノキ花粉に代表される季節性アレルギー性鼻炎に分けられます。

4.診断や治療は?治る病気?
目や鼻などのつらい症状は勉強や運動に悪影響を及ぼしかねないため、疑わしい場合はアレルギー検査をお勧めします。診断された場合、抗原をできる限り回避したり症状を緩和する薬物治療(抗ヒスタミン薬やロイコトリエン受容体拮抗薬、ステロイド噴霧薬)を行います。アレルギー性鼻炎は根本的には体質が関わっているため、「完治」するとは言えないかもしれません。しかしながら、治療や日常生活での注意(抗原との接触を絶つことなど)により症状を軽くしたり、出にくくすることはできます。また、現在スギ花粉症やダニアレルギー性鼻炎についてはアレルゲン舌下免疫療法が登場しています。長期にわたって正しく治療が行われると、アレルギー症状を長期にわたっておさえる効果が期待できます。アレルゲン舌下免疫療法はスギ花粉症、ダニアレルギー性鼻炎ともに、5歳以上の患者さんが治療を受けることができます。詳しくは当院へお問い合わせください。

乳児湿疹について

1.乳児湿疹の原因は?
乳児湿疹は色々な原因がありますが、頻度が多いのが生後間もない時期によく見られる脂漏性皮膚炎です。この時期は皮脂の分泌が生涯で最も盛んな時期で、過剰な皮脂が原因で湿疹を起こします。生後4,5か月くらいになってくると、むしろ皮脂の分泌は減ってきて皮脂欠乏性湿疹(いわゆる乾燥肌)の頻度が増えてきます。痒みを伴って掻きこわしてしまうと湿疹は悪化し感染症の原因にもなってしまいます。

2.乳児湿疹の治療、ケアは?
乳児湿疹にはスキンケアと保湿剤など適切な外用薬が必要です。スキンケアの目的は皮膚に付着したハウスダストなどのアレルゲンや皮膚に常在する黄色ぶどう球菌、汗など痒みや湿疹の悪化因子を洗い流し、保湿剤やステロイド外用薬の効果を高め、皮膚の良い状態を維持することです。無添加石けんを泡立てネットを用いてよく泡立てて皮膚につけて手で優しく洗ってあげましょう。スポンジやガーゼを使ってこすると敏感な皮膚をさらに傷つけてしまう可能性があるからです。脂漏性皮膚炎で厚いかさぶたになっている部分は無理にははがさず、洗う前にワセリンやオリーブオイルを塗っておいてふやかしたあとに洗い流してください。良く洗い流した後は、清潔なタオルやガーゼでこすらずに軽く押さえて水分を吸い取るようにしてください。その後、できるだけ早く保湿剤などの外用薬を塗りましょう。湿疹がひどいときには朝夕1日に2回スキンケアを行うと効果的です。

こどもの視力について

1.こどもの視力に関する問題とは?
乳幼児期の眼の病気の代表は斜視と弱視です。斜視に関しては、黒目の位置がおかしいなど、見た目の異常で気づかれることが多いのですが、弱視は見た目ではわからないので気づかれないままになってしまう危険があります。

2.弱視とは?
弱視とは、視力の発達期(生後1か月から始まり、8歳くらいまで)に視覚刺激が遮断、もしくは両眼に同様な画像が投影されないために視力の発達が止まったり、遅れたりして生じる視力低下のことを言います。6歳以下の小児の1~6%が弱視や弱視の危険因子(斜視や不同視、白内障など)を有していると言われています。その他にも危険因子は早産、低出生体重児、一親等内に弱視を認めること、妊娠中の母体喫煙、発達遅滞などがあります。

3.弱視スクリーニングの問題点は?
弱視はこどもたちの将来に大きな影響を与える可能性があり、3~5歳で治療を開始したほうが治療に対する反応が良いことから弱視治療は5歳(できれば3歳)までの幼児期に治療を開始することが望ましいとされています。しかしながら、幼児は視力が0.2あれば不自由なく行動することができ、片眼の視力が良ければ実際には生活に支障は生じませんので発見が遅れがちになります。もちろん、日本では乳幼児健診(特に3歳児健診が大切です)で視覚スクリーニングが実施されますが、こどもたちの視力検査を正確に行うのは家庭でも病院でも難しいことが多いのが実状で、日本小児眼科学会は従来の健診時の視力検査に加えてフォトスクリーナー等を用いた屈折検査を推奨しています。さらに、米国の小児科学会、小児眼科学会はより早期のスクリーニングのため生後6か月からフォトスクリーナー等を用いた検査を推奨しています。

4.当院での取り組み
このような背景から、当院では全ての年齢の健診時にフォトスクリーナーを用いています。検査は非常に簡便で、カメラで写真を撮るような感覚で行います。検査時間もほんの一瞬(約1秒で)、高いスクリーニング成功率(97%)と言われています。スクリーニング検査は確定診断を行うわけではありませんので、検査結果次第で眼科専門医の先生に精密検査をお願いすることになります。当院で導入しているフォトスクリーナーについての詳細はこちらをご覧ください。
http://welchallyn.jp/visionscreener/

いわゆる"風邪"と抗生剤について

1.抗生剤不適正使用と耐性菌
今、抗生剤の適正使用が強く求められています。これまでに行われてきた不適正な抗生剤使用がもたらした有害な結果が、薬剤耐性菌とそれによる感染症の増加です。それとは逆に1980年代以降、新しい抗生剤の開発は減少しています。このことから、2050年には全世界で年間1,000万人が薬剤耐性菌による感染症で死亡すると推定されています。テレビ報道で薬剤耐性菌に関連するニュースを見る機会が増えていますし、この問題は今すぐ対応していかなければならない問題です。

2.日本の現状と問題点
日本では抗生剤の9割以上が飲み薬(主に外来診療において処方されます)として処方されていることから、適正使用によって患者さんに悪影響を及ぼすことなく、安全に一定の割合減らすことが国の目標として掲げられています。

3.“風邪”と抗生剤
不適正な抗生剤使用は主に、いわゆる“風邪”や“お腹の風邪”に対して行われてきました。しかしながら、これらの原因は9割以上でウィルス感染が原因であり、抗生剤は効果が期待できません。むしろ下痢や発疹などの有害な影響が2倍以上増えることが分かっています。
“風邪”と呼ばれることが多い急性気道感染症の場合、熱やのどの痛み、咳、鼻水などの症状は2,3日でピークを迎え、7~10日くらいで治まるのが自然経過です。この間、身体は免疫を発動させ病原体と戦います。必要に応じて解熱剤や去痰剤などを用いて経過を見ることで治っていきます。もちろん、幼児期以降の咽頭炎の原因として知られている溶連菌感染が疑われたり、風邪の後に細菌による肺炎や副鼻腔炎などを起こす場合もありますので、状況に合わせて必要な検査を行ったり、後日の再受診をして頂き、抗生剤が必要な状態なのかを改めて判断することが大切です。

4.“抗生剤の延期処方”について
現在、“抗生剤の延期処方”というやり方が注目されており、初診のときに抗生剤の必要性が明らかではない場合、その後に再受診していただいて抗生剤の必要性を再評価するというものです。経験のある小児科医でも、1回の診察で全てを適切に判断することが難しいことはよくあり、後のフォローまで丁寧に行うことで安心・安全な治療が可能になると思います。

こどもの急性下痢症、胃腸炎について

1.こどもの急性下痢症、胃腸炎とは?
いわゆる“お腹の風邪”と呼ばれることが多い急性下痢症、胃腸炎についても急性気道感染症と同様で、大部分がノロウィルスやロタウィルスなどのウィルス感染症で抗生剤は効果が期待できません。

2.胃腸炎の経過と治療のポイントは?
一般的には1,2日続く吐き気や嘔吐で始まり、2、3日続く下痢になっていきます。下痢は長い場合には10日くらいは続くこともよくあります。基本は脱水にならないように糖分や電解質を含む水分(ORS:経口補水液)を少しずつ(ティースプーン1杯程度から)、こまめに(15~20分ごと)摂らせて、吐かないのであれば1回の量を増やしていくやり方をお勧めします。科学的な根拠は乏しいのですが、吐き気が強い場合には吐き気止めを、腸内環境を整えるという目的で整腸剤を使用することがあります。血性の下痢があるような場合にはサルモネラやキャンピロバクターといった細菌性腸炎の可能性も出てきますが、激しい腹痛や高熱がない場合には抗生剤を使わなくても自然に良くなっていくことが多いです。

3.胃腸炎を発症した場合の注意点は?
上のようなやり方で水分を飲ませても繰り返し吐いてしまう場合や、不機嫌、ぐったりしている、半日以上おしっこがでない、普段と様子が違う、などがみられる場合には受診することが必要です。また、血性の下痢が続いたり、高熱や激しい腹痛がある場合には細菌による腸炎や虫垂炎の可能性もあるため再受診し検査など行う必要があります。また、特に乳児期に下痢が2週間以上にわたって続く場合、腸炎後症候群と呼ばれる感染性腸炎の後に乳糖などの糖類を分解する酵素活性が一時的に低下してしまうために起きる病態のことが多いのですが、中には消化管アレルギー(多くが牛由来ミルクが原因)が関与していることもあるので、慎重な対応が必要です。

こどもの長引く咳について

1.こどもの咳の原因は?
こどもの急性咳嗽の原因は普通感冒(いわゆるウィルス性の風邪)がほとんどで、1週間で半数が、2週間で90%以上が症状は改善すると言われています。その他の原因としてはクループ症候群(ケンケンした咳)、急性細気管支炎(ぜーぜーしていて、痰の多い咳)、喘息、アレルギー性鼻炎、マイコプラズマ感染症、百日咳などさまざまです。

2.長引く咳とは?
一方で、長引く咳とは一般的に3~8週間続く遷延性と8週間続く慢性に分かれます。普通感冒やマイコプラズマ、百日咳などによる急性呼吸器感染症の後に咳が続くものを感染後咳嗽といいますが、その大部分は1~3週間で治まり特別な治療は必要ないことが多いと言われています。3週間以上続く遷延性咳嗽の一部にはマイコプラズマ、百日咳やウィルスが関与していることもあるため、診断のための検査を行う場合もあります。この場合でも8週間以上続く慢性咳嗽の原因となることはまれです。

3.咳が長引いている場合の注意は?
こどもの慢性咳嗽は幅広年齢層で見られる原因(後鼻漏症候群、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、受動喫煙など)と年齢層に特徴的な原因(例えば乳児期は気道軟化症や胃食道逆流による誤嚥など、幼児期は気道異物や遷延性細菌性気管支炎など)があります。このような場合はいわゆる咳止めの薬ではなかなか治りません。十分な問診と必要な検査を行って適切に対処することが必要です。また、クループや百日咳などは特徴的な咳が出るので、可能であればスマホなどで動画撮影や録音をして頂き、その様子を診療の参考にさせて頂ければと思います。

こどもの鼻水、後鼻漏について

1.後鼻漏とは?
後鼻漏という言葉はあまり聞きなれないかもしれません。簡単に言うと、鼻水がのどの奥に垂れ込んでしまうことで、痰が絡んだような咳や喘鳴、呼吸困難感といった症状を引き起こします。

2.乳幼児の後鼻漏の原因は?
乳幼児期の後鼻漏はほとんどがいわゆる“風邪”と呼ばれる上気道感染症の後に起きて、長引いたり繰り返したりします。

3.後鼻漏の問題点と対策は?
特に、寝ているときに鼻水がのどに垂れ込んでしまって突然のせき込みで起きてしまったり、睡眠を邪魔してしまうことがよくあるのであなどれません。さらに、鼻水、鼻詰まりは中耳炎の原因にもなりえます。乳幼児の後鼻漏は鼻水をよく吸ってあげることが効果的です。自宅では手動、あるいは電動の吸引器を使用したり、“こより”で優しく鼻をくすぐってあげるとくしゃみが誘発されて、意外と奥の鼻水が出てきてすっきりします。

4.病院で行う鼻処置の有用性
自宅で鼻水を吸ってあげても、鼻の奥にある、ねばっこい鼻水を十分に吸ってあげるのは難しくありませんか?当院では鼻吸い処置(鼻腔吸引)を行っており、連日通院して吸入や鼻処置を行うこともできますので、お気軽にご利用ください。

5.学童期以降の後鼻漏について
幼児期後半や学童期以降は、後鼻漏の原因として副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎が多くなってきます。この年代のこどもたちの約半数がアレルギー性鼻炎に悩まされていると言われています。くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみ、眠りが浅く寝苦しい、不機嫌で勉強や遊びに集中できないなど、気になるサインはありませんか?アレルギー性鼻炎が疑われる場合は必要に応じて原因となる抗原(アレルゲン)検査を行い、ステロイド点鼻や抗アレルギー薬を用いて治療します。早めに対応してあげることが子どもたちの生活の質を改善させます。

臍ヘルニア(赤ちゃんのでべそ)について

1.臍ヘルニアとは?原因や頻度は?
いわゆる赤ちゃんの“でべそ”が気になるお母さんはいらっしゃいませんか?それは臍ヘルニアかもしれません。赤ちゃんの臍帯(へその緒)が取れた後、おへその下の部分(臍輪)は四方の筋肉が寄ってきて自然に閉じるのがふつうの経過です。ところが、筋肉が完全に閉じていないために、泣いたりいきんだりして腹圧が上がった時に、筋肉のすきまから腸が飛び出してきて“でべそ”の状態となります。5~10人に1人の割合でみられ、生後3ヶ月頃まで大きくなり、直径が3cm以上にもなることがあります。特に早産児や低出生体重児で多く見られます。鼠経ヘルニア(いわゆる脱腸)とは異なり、飛び出した腸がもどらなくなったり、捻じれて腸閉塞を起こすことはまれです。

2.治療しなければいけないの?
大きさにもよりますが、腹筋が発達して1歳頃までに約8割、2歳ころまでに約9割が自然に治ります。1~2歳を越えてもヘルニアが残っている場合や、ヘルニアは治っても余った皮膚がだぶついておへそが飛び出したままになっている時には手術が必要になることがあります。
最近は少しでも早く治すために圧迫治療が広く行われています。綿球やスポンジをおへそに当てて、医療用のテープや透明フィルムを貼って固定します。肌質にもよりますが最近の素材はかぶれにくく、防水のためお風呂も入れますが、皮膚の状態をよく観察しながら3,4日に1度交換して治療を続けます。だいたい2~3か月で治ってくることが多いですが、元のサイズが大きい場合はもっと時間がかかったり、治らずに手術が必要になることもあります。乳幼児健診の時などに臍ヘルニアを指摘された場合には当院にご相談下さい。

(くり返す)中耳炎について

1.こどもの中耳炎の原因は?
中耳炎は耳の痛みや耳だれ、発熱といった症状を引き起こします。原因は“かぜ”で鼻水がたまったり、鼻をすすったりすることで喉や鼻にいるウィルスや細菌が耳管という管を通って中耳に入り込むためです。乳児期後半から3歳くらいまでのお子さんによく起こり、3歳までの半数以上が1度は中耳炎になるとも言われています。
小さなお子さんは痛みを訴えることができないので注意が必要です。急に泣き出して機嫌が悪い、鼻水が多くて機嫌が悪い、耳をよく触る、などの徴候がある場合には中耳炎が隠れているかもしれません。

2.中耳炎をくり返す原因は?
反復性中耳炎の定義は“過去6か月以内に3回以上、12か月以内に4回以上中耳炎をくり返す場合”です。リスクとしては、2歳未満の低年齢、抗生剤が効かない菌(耐性菌)の存在、生活・環境要因(兄弟がいること、保育園児、非母乳育児、おしゃぶり使用、受動喫煙など)があげられます。

3.当院の中耳炎治療
まず、鼻吸いを頻回に行って鼻水をためないようにすることが大切です。上手に鼻をかむことができない乳幼児では自宅での鼻吸いに加えて、当院の鼻吸い処置(鼻腔吸引)をご利用ください。連日通院して吸入や鼻処置を行うことができます。
また、軽症の中耳炎場合には抗生剤は不要とされており、診断から3日間は経過をみて改善が無ければ抗生剤を始めます。中等症以上では診断した日から抗生剤を始めます。当院では基本的には抗生剤を開始する前に鼻汁の細菌培養検査(1週間程度結果に時間がかかります)を提出し、なかなか中耳炎が治らないといった場合に、その結果を参考に適切な抗生剤の再選択ができるようにしています。また、反復性中耳炎のお子さんには漢方(十全大補湯)のご提案もいたします。十全大補湯は漢方で言う“気:目には見えないエネルギー”や“血:全身をめぐる血液”を補う“補剤”です。まだ免疫の弱い2歳未満の低年齢児の全身状態を良くして体力をつける効果が期待できます。実際に十全大補湯を用いた反復性中耳炎に関する研究では十全大補湯は中耳炎の頻度を減少させることが分かっています。

子どもの便秘について

1.便秘とは?
便秘とは便が滞ったり(回数や量の減少)、便が出にくい状態(便を出すのに苦痛を伴う)です。
便秘が長期にわたると慢性便秘と呼ばれます。さらに、何らかの疾患に伴う器質性とそれ以外の機能性(習慣性)に分かれます。腹痛の訴えで受診する子どもたちで便秘が原因であることはよく経験されます。

2.便秘になりやすい時期は?
こどもの便秘のきっかけは、①乳児では母乳から人工乳に移行する、あるいは離乳食の開始、②幼児ではトイレットトレーニング、③学童では通学開始や学校での排泄の回避などが知られています。発症のピークは2~4歳のトイレットトレーニングの時期です。
3.便秘は遺伝する?
便秘は食生活や環境要因だけでなく、遺伝的要因もあると言われています。便秘の子どもはその両親や兄弟が便秘の症状を持つ割合は30-60%と言われます。双子では一卵性の場合、二卵性と比較して4倍の便秘発症の一致率と言われています。

4.健常児の1日の排便回数は?
一般的には生後3カ月までは母乳栄養児では平均3回、人工栄養児で平均2回です。母乳栄養児では授乳毎に排便がある場合や7日に1回ということもあります。その後2歳までに1日1-2回になり、3歳以降は1日1回程度になります。

5.便秘の診断は?
普段の排便の状況(回数、性状)や家族歴、便秘の誘因になりやすい要因などについて、しっかり話を伺います。その上で、貯まった硬い便(便栓)の有無をお腹の診察やレントゲン検査、場合によっては直腸指診を行ってチェックします。

6.便秘の治療は?
まずは食習慣(水分不足、早食いや偏食など)や排便習慣(排便に費やす十分な時間の確保、我慢させない環境など)で見直しが必要な部分があればできる限り修正していきます。
便意があるのに我慢姿勢をとったり、排便時に痛がる・肛門からの出血があるときなどは最初からお薬による治療の適応です。
まずは便栓を十分に除去することが大切で、グリセリン浣腸や坐薬などの外用薬と緩下剤や刺激性下剤などの内服薬のどちらか、あるいは両方を併用して数日~1週間かけて行います。便栓の除去ができた後、維持治療を続けます。この場合でも生活・排便習慣の見直しを続け、必要があれば緩下剤や刺激性下剤などの薬物治療を併用します。
幼児期の場合には適切な便秘治療を先行させ、便秘を改善させてからトイレットトレーニングを始めることが勧められます。“便秘が無い状態”を少なくとも数カ月間維持することができれば、薬を中止あるいは減量するかを検討します。幼児期の場合にはトイレットトレーニングが完了するまでは治療を継続することが必要です。

7.いつまで治療が必要?
便秘症のお子さんのうち、約半数は治療開始から半年以内に規則正しい排便習慣が獲得できます。また、同じく約半数は2年以内に薬物治療を完全に中止できると報告されています。
いったん、治療を終了できても再燃することが少なくないので治療終了後も1年程度は経過観察が必要とされています。